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  • 『人は愛するに足り、真心は信ずるに足りる-アフガンとの約束』 中村哲・聞き手:澤地久枝


    景観を語るとき、そこに住んでいる人々のことを抜きにしては語れない。狭いといわれている日本国内でも北海道から沖縄諸島まで、均質化したといわれているが、それでもそこに実際に行ってみると、そこでの生活が醸し出す雰囲気が異なり、そこから生まれ出てくる景観は多種多様である。

    これが世界の景観となれば当然文化の違いが歴然と景観の違いとなって顕われ、自然景観でさえそれは顕著なものである。

    さて、アフガニスタンという国を思うと、あのガンダーラ芸術を生み出し、そして現代ではかつてのソ連と現代の米国によって蹂躙されてきた戦乱の歴史と、それがもたらした貧困にあえいでいる国ということを思い浮かべる。

    その国に、たった一人で、30年間も人々の命を救うべく戦い続けているドクターがいる。中村哲さんである。

    中村さんは、1984年以来ハンセン病治療をはじめとする医療活動を黙々と続けてきたが、今や医療協力だけでは限界を痛感し、貧困撲滅のためには生活の根本である水の安定的供給を図り、驚くべきことに、1400本の井戸を掘り、全長24キロ以上の用水路を造るなど、アフガンの復興の先頭に立って邁進してきた。

    この活動に感動し、ノンフィクション作家である澤地さんがきめの細かい準備と心ある数年にわたるインタビューによって出来上がったのが本書である。この中で中村さんは、人々の生きてゆく多様性を尊重することがいかに大事かと強調する。そこに生活する人々が作り出す文化と景観が多種多様であるからこそ、人々の生きる賑いと豊かさが生まれるのであろう。生物多様性と共に文化多様性を唱えたい。中村さんは“あとがき”で、不気味にも次のようなことを指摘している。「世界中でグローバル化の功罪がささやかれているが、その不幸な余波をまともに受け継いでいるのがこの国である。アフガニスタンは良きにつけ悪しきにつけ、一つの時代の終焉と私たちの将来を暗示している。」

    兎も角も皆さんにこの本を読んで頂きたい。生きることの勇気と、正義とは何かということがこれほど教えられる本も珍しい。そして、ぜひ購入していただきたい。その費用の一部がアフガンの命の水となるのだから。そして、オバマでもなくアル・ゴアでもなく、ましてや佐藤栄作でもなく、世界はこの中村哲さんのような人にノーベル平和賞を授けていただきたい。そこには平和な景観がある筈だから。(斉藤全彦)