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  • 『創造都市への挑戦-産業と文化の息づく街へ』佐々木雅幸著


    creative創造的・クリエイティブ、と言う言葉はよく使われ、最近ではクリエーターと言う名称も聞かれるが、中々説明しがたい多岐にわたる意味を持っているらしい。

    かの英国の批評家レイモンド・ウィリアムズに言わせれば「“独創的な・革新的な”という一般的な意味と、これに関連した“生産的な”という専門的な意味を持つ」ということになる。「創造都市」を簡単に説明すれば、独創的で革新的な何かを生み出しつつある都市、ということになろうか。

    即ち、都市においてそこに息づく「人間の作る能力」に注目するということになる。著者はこのコンセプトを日本及び世界各地の都市を巡りその創造の証を紹介する。

    先ずはイタリア北部の中核都市ボローニャ。もともと中世から続く職人が溢れるものづくりの盛んなところであり、ヨーロッパ最古のボローニャ大学を有す教育都市でもある。

    しかし、その都市も1990年代になると市場万能のグローバリゼーションの大きな波に巻き込まれ、その対抗策として「第三の道」路線を歩みだした。

    それはイギリス・ドイツ・フランスなどと同様に政治的リーダーシップの発揮により中道左派政権誕生をもたらし、「産業政策のみならず文化や福祉の分野で協同組合や非営利組織と公共部門との連携・協同の取り組みによって住民の自発性と創造性を引き上げて、財政危機を創造的に克服し、「福祉国家」を超えた「分権的福祉社会」の具体的なイメージが作り出された」ということである。

    景観的にいえば古い町を如何に創造的に活かすかという問題に応え、古い街並みと建築物を活用する際、内部は現代的に効率よく変え、外部を含めた構造は変えられない、というボローニャ方式である。

    そして、具体的な職人企業と新たな事業形態としての事例の紹介がされる。金沢における文化資本の活用事例、イギリスの産業革命をリードしたバーミンガムにおける人間中心主義の都心再生戦略の復活事例、ドイツ南東部に位置するフライブルクの環境文化創造都市の事例、バルセロナ・モントリオールの芸術都市の挑戦、京都西陣の「ほんもの」コンセプトと桐生の事例、三鷹市のSOHO、渋谷のビットバレー、大田区のITネットワーク、秋田のたざわこ芸術村などの事例に溢れる。

    著者は、これらを支える条件の大きなものとして「自然環境と伝統的街並みが保全され、地域住民の創造力と感性を高める景観の美しさを備えた地域」を指摘する。新たな産業創造には健全なコミュニティと良き景観が必須条件であろう。(斉藤全彦)