• Book Review
  • 『都市の文化』1938年 ルイス・マンフォード著 生田勉訳


    世界に大変革が起きているとき、人々はどのように対応してきたのであろうか。

    人類史において、先ず、ヒトは火を使い始めることにより他の動物と決別し、長期にわたる苦難の時間を経て計画的な食糧生産を発明し、産業革命により生産の爆発的な拡大を可能とした。

    そして現代、情報は地球の裏側に瞬時に送付され、あらゆるモノは地球のどこにでも輸送可能となり、人類は地球環境に対してさえもダメージを与えるまで力を持つようになった。

    即ち、グローバル時代の到来である。この人類の歴史の胎動を「都市」という人類の最高の構築物から考察したのがこの著作である。

    それでは都市とは何か?「都市とはコミュニティの権力と文化の最大の集中点である」とマンフォードは定義づける。そして「都市は自然環境に文化的な形態を付与し、人間遺産を恒久的な集約的形式のなかに具象化する」ものであるとする。

    この人間と都市の関係を基調としながら、彼は、有名な都市の発展衰退の輪廻説を展開する。

    第1段階「原ポリス」-村落が生起し、経済的文化的エネルギーが蓄積する。

    第2段階「ポリス」-自由なエネルギー、自由な時間が解放され、社会的分業が発展し、文化的蓄積が増加する。

    第3段階「メトロポリス」-世界貿易が発達し、経済競争が激化する一方、異文化接触により、文化的エネルギーが最大限に解放される。

    第4段階「メガロポリス」-衰退の始まり。資本主義的工業化の進展は都市を金儲けのための空間として出現させ、そこは金融機関、官僚機構、そしてマスメディアが集中する政治・経済・文化の三位一体的支配中枢となる。

    第5段階は「ティラノポリス(専制都市)」-メガロポリスにおける生活から遊離した消費文化によって市民の活力は衰え、都市自体の巨大さゆえに官僚機構が肥大化し、自治体と国家が破産し、芸術と科学は創造を停止する。
    最後に、第6段階「ネクロポリス(死者の都市)」に至ると言う。(佐々木雅幸氏著『創造都市の経済学』1997年刊勁草書房から引用)

    この書籍は、今からほぼ70年前に刊行されたものだが、現在われわれ先進諸国が享受している都市文化がどの段階にあるかに思いを馳せるとき、背筋が寒くなる思いがするのは私だけだろうか。人類はその長い歴史で数知れない困難を克服して来たのだが、最初に火を起こしたヒトは、現代の原子力エネルギーをみてどのように思うだろうか。

    そして今こそ、われわれ自身もコミュニテーと都市文化、そこに現れいづる景観をもう一度問い直す時が来たようである。
    (齊藤全彦)