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  • 『こころの詩-四季の彩り(はり絵画文集)』内田正泰画著 日貿出版社2011年刊


    貼り絵と聞くと子供の世界を連想する。お絵かきごっこの一分野のように考える御仁もおられるのではないだろうか。また、日本中を放浪して、あの何とも言えぬ世界を表現した山下清(1922-1971)のちぎり紙細工の世界も想像できよう。

    しかし内田正泰(1922-)の世界は常識で思いつく貼り絵を突き抜けた“はり絵”の世界と言うべきであろう。90歳を超え、現在でも健在な画家は日本の風景を愛して止まない。なぜ日本の風景なのか-「日本の国は四季の移ろいの中で豊かな自然を育んできました。ですから私には日本が世界中で最も美しい国と思えてなりません。・・・少年時代の体験は、しばしばその後の人生に大きな影響を与えるものです。もちろん大人になって旅した諸外国の風景も心に強く残っていますが、私の作品の原風景としては、少年の頃に見た日本の景色が心の中に強く焼きつけられております。」という。そして、貼り絵にどっぷりつかりながらはたと気が付く。「自然の風景の中には人の心を育む計り知れない無限の力がある。

    自然はデフォルメ以前にもっと深く、清く、美しい無限の美と教えを持っている。・・・・それは学問的な論理を超えた自然の力によるものである。・・・・人間が造り出したものではなく、それら万障が地上に生きる人に与える科学であっても人為的造形では絶対に出来ない、目に見えない力(インスピレーション)になって存在している。」このような確信に支えられた絵は、何と歓喜に満ちた画また絵となっていることだろう。画家の信念はその表現として春夏秋冬の光として見るものの目を飽きさせない。この世に眼前とある色彩の世界にハッとさせられる経験はそうあるものではない。春夏秋冬とは時間の変遷を身体全体で感じ取ることだが、そして、悲しいかな人間の寿命が80年とすれば、春夏秋冬という四季の変遷は人が生まれそして冥土に旅ゆくまでにたった320回しか経験できぬことになる。内田正泰の世界はこの320回しか経験できぬ四季の循環を豊かな増幅へといざなう快感がある。それは命の営みを深く知った人でしか描けぬ世界である。内田画伯曰く「友人の中に花を専門に描いている画家がいまして、その作品は花の華やかさよりむしろ枯れ落ちそうな花の命を惜しむ風情を感じさせます。“惜しむ”と“愛しむ”は字としては異なっていても、気持ちは同じに感じられます。生物として“命”という言葉をどうとらえるかという問題でもあるのでしょう。」これ以上は何も付け加える必要はない
    (齊藤全彦)