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  • 『都市のイメージ』ケヴィン・リンチ著 丹下/富田訳 岩波書店 原著初版1960年訳


    私達は都市に対してどのようなイメージを持っているのだろうか。この書の原題は“The image of the City”であり、cityを都市と訳している。これはcitizenいわゆる市民がいるところを示しているのであろう。その市民の存在するところを英語では、物理的な大きさの順にmetropolis>city>town>village>hamletとなる。

    日本では、これらの言葉が地下鉄をメトロと称したり、都会に住む男の子をシティボーイと言ったり、新しい新興住宅街を例えばグリーンタウンと名付けたり、新しい別荘地を何々ヴィレッジと言って売り出したりする。最後のハムレットは人口に膾炙しなかったが、教会がない小さな村を言うらしい。日本語のイメージでは“まちづくり”といっているのは、おそらく大都市または首都と訳すmetropolisは対象外であろう。

    さて、リンチがその研究対象としている都市はボストン(人口60万程度)、ジャージー・シティ(人口25万程度)そしてロスアンゼルス(人口370万程度)というようにかなり大きな“まち”を対象にしている。先ずその分析用語であるが、第1にパス(Paths)いわゆる道筋のこと。第2にエッジ(Edges):境界線など。第3にディストリクト(Districts):都市の中のある部分。第4にノード(Nodes):都市内部にある主要な地点。そして第5としてランドマーク(Landmarks):周囲のものの中でひときは目立ち覚えやすい何らかの特徴。

    これらの5つの用語を用い三都市を分析する。そして、都市に現れているあらゆるものを10の形態の特質で考察する。特異性(Singularity)、形態の単純さ(Form Simplicity)、連続性(Continuity)、優越性(Dominance)、接合の明晰さ(Clarity of Joint)、方向性(Directional Differentiation)、視界(Visual Scope)、運動を意識させるものであること(Motion Awareness)、時間的な連続(Time Series)、名称と意味(Names and Meanings)の10のキーワードを用い、今まで漠然と眼前にあった都市をまるで明確な彫刻像を示すかごとく我々の前に提示してくれる。

    これらの、技術的用語は一見抽象的であるかに見えるが、実際にこれらの用語を用いて普段あまり自分が意識していない“まち”にでも適用すると、その使い勝手は意外と効果が出てくるのが不思議なくらいである。“まちづくり”はその表れとして“景観”が現れてくる。ケヴィン・リンチが提示したこれらの諸概念は、まさに“景観から考えるまちづくり”の良いツールではないだろうか。大いに活用してそれぞれのコミュニティに合ったキーワードを創造することをお薦めする。(斉藤全彦)