1988年英国のチャールズ皇太子はBBCテレビで“Vision of Britain: A Personal View of Architecture”(英国の未来像:建築に関する個人的見解)という連続講演を行った。事例を多く用いたこの放送の反響は大きく、1万通余りの皇太子へのラブコールと、当然業界等の喧々諤々の議論がなされたという。この書はそれをもとに、翌年に同名の書籍として刊行されたものである。
確かに、皇太子の見解は保守的である。だが、人々が日常生活の場で“本来の豊かな生活をおくるとは何か“を考えると、皇太子の見解に反論することができないのである。「最も発達した技術社会に暮らせるとしても、同時にわれわれが魂を失い文化的生活をおくる権利を剥奪されるだけだとしたら、その技術社会の目的とは何なのだろう。」と述べているように、彼の視点は単なる建築という枠を超えて現代文明批判へと達しているのである。彼こそは、地球環境問題を早くから住環境をもとにした景観問題として捉えていたのである。
では、彼の言う魂をもった文化的生活を送るには、住環境を作る代表格である建築はどうあるべきかという事に答えて「われわれが守るべき10の原則」を提示する。
次期王位に就く人間ともあろうものが、何と一般市民の視線で考えられていることであろうか。しかし、逆に伝統文化の継承を体現しなければならない皇族の者であればこそ、このような発言が意味を持つのかもしれない。セント・ポール大聖堂は今もしっかりと自己を表現しており、その邪魔をしてはいけない。(斉藤全彦)