• Book Review
  • 『文化的景観-生活となりわいの物語』金田章裕著 日本経済新聞出版社 2012年


    文化を定義することは大変難しい。ラテン語に由来する名詞cultura, cultusは耕作,耕地、世話、生活習慣、贅沢、衣服、装飾、保護、尊敬、祭祀等を意味し、手入れをする、移住する、敬慕する、祭るなどが動詞coloに由来し、農耕の言葉から魂の耕作として教養・教化が生まれたという。また翻訳語としての“文化”とは、何もないものから価値ある状態にすることであり、因みに“文明”は武ではなく“文”をもって世を“明”るくすることであるという。

    著者の文化的景観の定義は「文化的景観は、景観のうち特にその地域の環境に対応しつつ、歴史を通じてかたちづくられたものであり、文化そのものの一部である。文化的景観はしたがって、その地域における人々の生活と生業を物語っている」とする。即ち、この書によって著者は自然と人間の営みによって生まれた価値をどのように継承・発展させていくかを問いかけている。

    第1部は文化的景観とは何か、という問題を日本の世界遺産である合掌造り集落を見ながら考えてゆく。次に、地域遺産としての文化的景観として、景観法制定以降の日本の文化財と文化的景観の推移を探究する。

    そして、地域の構造変化と文化的景観との関わりを日本社会の景観を最も揺るがしている“近代化”について論じている。 第2部は日本全国に広がる文化的景観を京北の北山杉のような山村・山間の観点から、奈良の奥飛鳥のような農村の場から、琵琶湖北西岸の水辺空間から、そして、都市としての文化的景観を宇治と金沢を見ながら明らかにする。

    そのように発見した文化的景観をどのように保護・保全、そして発展させていくかという問いかけに対し、第3部において文化的景観のマネジメントとして英国の文化的景観を論じる。大学都市ケンブリッジ、18世紀の農村景観コッツウォルズがどのようにして今あるのか。最後に著者は、今生きている景観、変化している景観に対してどのように対処するかの問題に対して、先ず、日本において“景観“という概念をどのように捉えてきたかを概観し、次に、生きたシステムとしての景観を京都、沖縄県竹富島、そしてメルボルンの都市景観がどのように現代の文化的景観として生きているかを考察している。

    人類の歴史は“文化”と“文明”の関わり合いで本来の豊かさを追求してきたと言える。もう一度、豊かな“文化と景観“を考える時ではないだろうか。(斉藤全彦)