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  • 『街並みの美学』『続・街並みの美学』 芦原義信著


    本書はかれこれ30年を生きてきた秀逸な景観論であり、著者は戦後いち早く都市景観の重要性を主張してきた。この書の狙いを著者は次のように言っている。

    「当時(1979年)は都市の経済的発展のみが目標で、ヨーロッパの都市のように、町の中心に広場をつくったり、彫刻を設置したり、軒線をそろえるというアイディアは皆無であった。・・・・・自分の土地に自分だけの考え方で建築をつくるということが主体で、まち全体の美学という考え方には到底ほど遠い現状であった。

    ここでわれわれ日本人も、都市全体のことを考えて、少しでも美しい街並みを創るべく、一人一人が努力すべき時代が到来したと思える。」著名な象牙の塔の建築家が日本の建築界には街並みに対しての「美学」というものがまったく欠如していたという指摘は正直な話であり、若干気付くには遅すぎた感がある。

    それでは、なぜこのような美学が必要であるかという抽象的・哲学的議論に著者は敢て参画しようとはせず、あくまでも建築家としての具体的事例研究に終始する。例えば「建築における最も大切な境界は壁の存在であろう。」即ち、建築の空間領域の問題として壁から始め、街路、広場、街路と建築との関係、そしてこれらの概念を用いて世界の街並みの具体的分析を実践する。

    続編では景観問題そのものを取り扱う。西洋建築と日本建築を比較して、壁の建築と床の建築との比較検討から景観への影響を論じる。そして、景観の構成、コミュニティとプライバシー、景観の中での商店街の役割、都市空間の演出等々を論じ、都市美化を実践するとは何かに至り、最後に世界の街並みの景観分析を実践する。この本はまさに景観の匠の指南書であり、美学の本ではない。(斉藤全彦)