• Book Review
  • 『人口減少社会という希望-コミュニティ経済と地球倫理』 広井良典著 朝日新聞出版 2013年刊


    近現代において成熟社会を経験したヨーロッパ社会は、フランス経済哲学者セルジュ・ラトゥーシュの著書『経済成長なき社会発展は可能か?』ならびに『<脱成長>は世界を変えられるか?』(作品社刊)が問いかける問題を真剣に考える社会になっている。そして、日本においても人口減少が始まっている現代において、まさに同じ問いかけに真剣にとりかかる時期に来てはいないだろうか。

    これは、量ではなく質を問題にするQOL(Quality of Life)を社会問題の中心に据えることでもある。 さて、日本の総人口の長期的トレンドは2100年ころには5000万人弱になているという。これは20世紀初頭の人口に戻るということではあるが、高齢化率が40%を超えてしまうという点が全く異なる状況である。

    確かに単純に考えるならば、人口減少社会はビジネスチャンスという観点からはかなりマイナーな印象を与えざるを得ないだろう。グローバル経済はより安価な生産箇所を探し、より高価に売れる場所を確保するという点から考えても、グローバル企業のマーケットとしては魅力のないものとなろう。しかし、国を超えて人類文明の不可逆的変遷がもたらす歴史的真実に賢くなるためには、量的発想から質的発想にすべてを変化させることが最良の道というのがこの書の指摘である。例えば①物質的生産は地域単位で(食糧生産/ケア)②工業製品やエネルギーはより広範囲の地域単位で(自然エネルギーはローカルに)③情報の生産/消費はグローバルに④時間の消費はローカルに(コミュニティや自然等に関わる領域)という具合である。そして、「本来、科学や技術のあり方は決して“ひとつ”ではなく、それは自然観や生命観/人間観とともに、また実現されるべき“豊かさ”のビジョンとともに複数のものが存在する」とし、生物多様性のごとく生活多様性を提唱し、その下でのQOLの追求を提示する。  ヨーロッパ社会の多くの都市ならびに北米社会の一部に車社会から脱却することにより、“本来の豊かさ”を取り戻そうという動きが急速に始まっている。LRT(Light Rail Transit)の活用などはまさにその一環としての動きではあるが、日本の江戸時代の人々は歩くことを人生の楽しみの重要な要素と考えていたことを忘れてはならない。先人の知恵はおおいに活用すべきであるし、例えばご近所の鎮守の森に行ってエコロジーを考えるのも一考ではないだろうか。
    (斉藤全彦)