• Book Review
  • 『英国の持続可能な地域づくり』 中島恵理著


    持続可能性(サステナビリティ=sustainability)という言葉が使われ出したのは、1984年国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」(WCED=World Commission on Environment and Development)においてからである。

    委員長が後にノルウェーの首相となったブルントラント女史であったことから、その名前をとってブルントラント委員会と呼ばれた。1987年までの約4年間で合計8回の会合が開かれ、その後にまとめられた報告書”Our Common Future”(邦題『地球の未来を守るために』)では、環境保全と開発の関係について「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」という「持続可能な開発」の概念を打ち出した。

    この概念はその後の地球環境保全のための取組の重要な道しるべとなり、今や、社会・人文科学の場面としての“持続可能な地域づくり”といような多様な使われ方がなされるようになった。

    この概念は、疲弊した地域をどのようにしたら豊かな賑わいのある生活の場にすることができるか、と問うときそのまま活用されうる考え方であろう。

    さて、「筆者は、1999年から2000年の2年間英国に滞在し、“持続可能な地域づくり”を探しに英国中を飛び回った。」その詳細な、且つ大変役に立つ報告書である。この本の副題は“パートナーショップとローカリゼーション”とあり、「英国において、“パートナーシップ”は特に経済的・社会的に衰退していた地域を再生する活動の中で、実験され発展してきた。地域再生=Regenerationという概念は地域における経済・社会・環境問題に総合的に対応するという意味を持つ政策用語として1970年代から使われるようになった」という。

    そして、「この本では、“地域内の資源を地域内で活用する活動”を人・もの・金が世界規模に動くグローバリゼーションと対比してローカリゼーションと呼ぶことにしたい」とされており、実際に英国南西部の人口45万人の緑豊かな都市に行き、そこでの調査が正確に報告されている。

    第1章では地域再生の発展の歴史とブリストルでの地域再生活動が行政主導からどの様にパートナーシップへ引き渡されてゆくのかが語られている。第2章では地域内の資源をどの様に循環型にしてゆくか精査され、第3章では持続可能な地域づくりの実際の手順と運営が詳述されている。そして最後に、以上のものが日本で適用された場合どのようなやり方があるかを提案している。景観という言葉は使われていないが、環境問題を含め地域づくりが持続可能になれば、そこには素晴らしい賑わいのあるまちの景観が出現すること間違いなしである。(齊藤全彦)