• Book Review
  • 『世界まちづくり事典』 井上繁著


    環境問題では生物多様性が当然のように語られるようになった。それでは、人間の作り出す文化面ではどうであろうか。その中でも人間が用いている言語はその象徴的なものであり、この地球には、既に消滅してしまった言語も含めその種類は6千とか7千ほど存在したと言われているが、グローバル化が進んでいる現在、その数はますます減少傾向にある。

    それだけコミュニティの数も減っているのでろうか、人類の文化という観点から文化多様性というものがもっと論じられていいような気がする。

    言語と同様、地球には生き生きとしたコミュニティが多様に存在している。この『世界まちづくり事典』は著者自身によって、世界29ヶ国、120の都市をくまなく実地に歩き、そのまちづくりをジャンル別に分け詳述している。

    ジャーナリズムとアカデミズムを経験してきた著者によると「まちづくりは、まづ地域を見つめ、その土地固有の地域資源を活用することが基本である。だだ、交流の時代の地域づくりは、もっと各地の取り組みの実例を知り、それから学ぶことがあってよいのではないか。

    特に海外でのまちづくりの取り組みは、日本ではあまり知られていない。世界の都市を調査、取材すると、日本とは発想の違った活動が行われ、それらの中には日本で参考になる取り組みも多いことがわかった。これらを集大成したのが本事典である。」まさに世界120都市のまちづくりに関する著者による足で歩いた賜物である。

    本書は、環境、景観、歴史、文化首都、芸術、産業振興、地域交流、観光、イベント、建築という具合に10章にジャンル分けされている。例えば、第2章の「景観・まち並とまちづくり」では、12の都市が取り上げられ、その中の台湾の“鹿港”という都市では、「路地を歩けばタイムスリップ」として路地文化を注視し、「季節風を防ぎ盗賊を惑わす」、「民族文物館に栄華の残像」のような歴史的建造物の活用、「有志のグループがまちの案内役に」では実際の運営方法の紹介、「今に生きる伝統工芸の技術」では工芸品の活用をまちづくりに生かすやり方を考察している。そして最後に “この事例から日本は何を学ぶか”というコーナーを設け、日本のまちづくりでの活用要件を模索する。

    この事典を手にすると、何と世界には多様で豊かなコミュニティが存在するのかと感心させられ、そこには多様で豊かな景観が生きづいていることに感動する。今こそ“生物多様性”と共に“景観まちづくり多様性”を唱えたい。(齊藤全彦)