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  • 『フランスの景観を読む-保存と規制の現代都市計画』 和田幸信著


    現在フランスの人口はおよそ6千万人である。それを上回る観光客が毎年パリを筆頭にフランス各地を訪れている。何故だろうか。そこには行ってみたくなるような雰囲気を醸し出している魅力的な都市が存在するからである。

    そういう都市はただ石ころのようにそこに存在して来ただけだろうか。そんなことはありえない。「フランスでは、“神が農村を作り、人が都市を作った”という表現がある」といわれる。即ち、フランスにおいて、都市こそ長年そこに生活してきた住民のたゆまぬ努力の成果である。まさに私たちは芸術作品を観るように都市を鑑賞できるのである。

    ヨーロッパ各地には美しい都市は数多くあるが、「フランスで特徴的なのは、パリを中心として歴代の国王により美観整備が行われてきた」という。国王が美しい宮殿や街路を作ることで市民の美意識も教育されることになる。

    現代でも大統領は美観整備の伝統を受け継ぎ、また、それぞれの地域には平均1500人程度の人口規模の自治体(コミューヌ)が3600以上もあり、彼らが住んでいる近隣には多くの文化遺産が散在し、それを都市の中で守り育成していくことが住民の常識となっているという。

    さて、日本では1975年に伝統的建造物群保存地区(伝建地区)が制定され現在全国100に満たない地区が指定されているが、2004年に指定された景観法によって、歴史とか文化という言葉がやっと出てくるようになった。一方、フランスでは、1913年に歴史的建造物に関する法律が制定され、1927年には4万以上の歴史的建造物を指定し、1943年には歴史的建造物の周囲半径5百メートルについて、あらゆる建設を規制する制度が導入さた。それを担保するように国家公務員としてのフランス建造物監視官が各県2名配属され、各都市の都市計画にも積極的に参画している。

    このような体制と共に、フランスの都市の景観が美しくなるための都市計画が具体的に説明されており、日本の建蔽率・容積率の考え方が、美しい景観を作るためにいかに弊害になっているか、また、看板・広告などに対しての規制が美しい都市を創造するために徹底的に工夫されていることも教えられる。「フランスの景観は決して何もせずにできたたわけではなく、フランスの文化と伝統を反映した街並みを公益として保存しようとする国や自治体の意思と、これらを公共の財産として受け継ごうとする市民の意識により支えられている」ということである。是非一読を!(斉藤全彦)