• Book Review
  • 『タテ社会の人間関係-単一社会の理論』中根千枝著 講談社現代新書初版1967年刊


    大変有名な本である。約50年ほど読み継がれ、社会人類学の観点から日本の社会構造をタテ社会と命名した。ここで言う社会構造とは「一定の社会に内在する基本原理」を指し、「社会組織(social organization)は変わっても、社会構造(social structure)は変わらない」のであり、例えば、「村落と都市にある会社では、あらゆる組織・様態が異なるにもかかわらず、社会集団としての構造が同一である」という。では、この社会構造が解明するのは何か。「社会人類学においては、この基本原理はつねに個人と個人、個人と集団、また個人からなる集団と集団の“関係”を基礎として求められる。」即ち、衣食住に現れる生活スタイルの欧米化などのように変化が顕著なものに対して、その生活スタイルをエンジョイする日常の人々の付き合い方とか、人と人とのやり取りの仕方には全く変わらないものがあるという。

    さて、景観から考えるまちづくりという観点からすれば、景観とコミュニティとの“関係”とは、まさに社会人類学が対象としている“関係”という概念に近似しているのではないか。景観がまったく欧米化したにもかかわらず、そこに生活する人々の関わり方は以前とまったく変わってはいないという現象が多々見られるのである。

    著者は日本社会を親と子、上司と部下、親分子分などどの「タテ社会」と明示し、それをもとに出来上がった「近代以前に驚くほど完備した中央集権的官僚体制が日本に成立していたということは、日本社会のタテ構造の志向が政治組織自体の発達に大いに力になったのではないか」と指摘している。一方、インド・東南アジアなどには親分子分と言う関係がほとんど見られず、兄弟・縁者とかの同類の関係が社会組織に顕著ものを「ヨコ社会」と指摘し、欧米に代表される社会構造を「契約(contract)社会」と命名する。

    以上のような「タテ社会」「ヨコ社会」「契約社会」などの概念から景観とコミュニティを考える時、それぞれの社会で人々が感ずる豊かさはとは実に多様なものであり、その生活者が日常意識しないその土地から出現する“風土”という人類が長い時間をかけて積み重ねてきた時間経験の根本的な“条件”を無視することは出来ないだろう。「社会学的条件とは、その社会の長い歴史をとおして、政治的、経済的、文化的諸要素の発展・統合によってつくられてきたものである」という著者の指摘は、景観から考えるまちづくりを実践する際の金言ではないだろうか。
    (齊藤全彦)