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  • 『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか-小さな街の輝くクオリティ』 高松平蔵著


    地域間格差がはっきり出ている日本社会にとってこの本の題名はひどくショッキングである。日本社会全体を眺めてみてもバブル崩壊後はほとんどの地方都市は衰退の一途をたどってしまったと言っていい。今や、“限界村”などという不思議で不気味な名称がジャーナリズムを賑わせている。

    そのような時に元気で美しい地方都市があちこちに存在するという話には耳を傾けたくなる。著者はドイツ在住ジャーナリストで、冒頭「そもそも都市は人工空間であって、人が住んでいける人工空間をつくっていくには、建物だけでなく、人の関係性、つまり社会をどうつくっていくかという視点も必要になってくる」と言わしめるだけの豊富なドイツ在住経験を語っている。

    先ず、“歩くのが愉しい街”という章では、「ドイツの街にはたいてい広場がある」そうで、「市民は生活圏になんでもあることが当然という風に考え」ることが当たり前だという。つまり、最近、高層建築を野放図に建てまくっている建築家が言い出している“コンパクト・シティ”はドイツでは常識になっている。

    街イコールコンパクト・シティなのである。そして、ドイツの地方都市にある特色はスポーツ・余暇・故郷保護・しきたり保護・社会/福祉/地域支援開発・文化/芸術・職業/経済/政治・環境/自然保護などなど市民のありとあらゆる関心のあるものについてのNPOが活躍しているという。これが人と人との絆を作り、ドイツ人にとって10万人位が適当と考える地方都市を元気にしている。

    以上が町の毛細血管だとすれば、BMWなどの大企業は勿論のこと、企業というものは地域住民と一緒になってCSR活動を当然のように実施することで、まさに地方都市の動脈となっており、行政は静脈のように地域全体を支えており、とりわけNPO並びにベンチャー企業育成などには手厚い支援がなされている。

    適度な街のサイズと職住接近のライフスタイルは、人生を享受するベースとなっている。ドイツといえば偉大な音楽家を輩出した国だが、その国民性は「芸術は街の生活インフラなのだ」という考え方に基づいている。経済か芸術かという2者択一の議論はあり得ないのである。そして、地域が元気なのは住民の色々な活動をドイツで7割を占める地方紙が情報流通として支えている。良き景観はまちづくりと深い関係があり“景観から考えるまちづくり”には必読の書としてお薦めしたい。(斉藤全彦)