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  • 『宴のあとの経済学』E・F・シューマッハー著


    福島の大災害は今やヒロシマ、ナガサキを継ぐフクシマという世界語を創造した。同じ世界語のツナミがもたらした現在の福島はどのような未来を描いたらいいだろうか。これは福島の再興・復興のための単なる“まちづくり”を描くのではなく、全く新たなビジョンを提示するという事が要求されているのである。過去を無視するというのではなく、福島が持つ本来の豊かさを取り戻し、21世紀に向けて新たな豊かさを創造してゆくという課題である。そのためのバイブルとして本書をお薦めしたい。

    エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー(1911-1977)は何者であるか。「スモール・イズ・ビューティフル」(1973)の著者で有名であるが、単に、ドイツ生まれのイギリスの経済学者と称するにはあまりにも活動範囲が大き過ぎるようだ。彼の著書や、発表ドキュメントは彼の活動計画や活動報告であったりするのは彼の生涯を見ると一目瞭然である。

    経済学博士から英国石炭公社の経済顧問、ビルマやインド政府の経済顧問、英国土壌協会会長、そして自ら中間技術開発グループという民間会社を設立している。タイムズ、エコノミスト、オブザーバー等の有名誌に寄稿する傍ら、『混迷の時代を超えて-人間復興の哲学』(1977)において自己の立場を理論的に確立し、死後、講演をもとに刊行されたのがこの『宴のあとの経済学』(1979)である。

    本書の原題は“Good Work”(良き仕事)であり、「人生の中心に据えられているのは労働、仕事である」という立場から、「人類のエネルギーの大半を費やするのは仕事であるし、人間を理解するにときに重要なのは、彼らが実際にどのような仕事をするか」を探究することが大事であるという。そして、現代の産業社会が齎したものは、環境破壊ばかりでなく、殆どの労働形態の内容と尊厳を破壊し、社会の中にある有機的な関係を分断させ、人間の徳性と知性の堕落を誘い、高度に複雑な生活様式を強いて、暴力を醸成するものであると指摘する。

    そして、その原動力が人間が生みだしたテクノロジーであり、この肥大化したテクノロジーを本来の人間性に基づくものに戻すには、先ず既存の初歩的テクノロジーの水準を高め、次に省力化、その二点を踏まえて、全く新しいテクノロジーの創造であるという。以上のようなパラダイムシフトが福島のまちづくりに今こそ必要な時ではないかと考える。シューマッハーは身の丈に合ったテクノロジーが人類にとって本来必要とされるものであり、「人間はひとり一人が一つの宇宙なのである」と高らかに宣言する。(斉藤全彦)