• Book Review
  • 『都市と人間』 陣内秀信著


    今、NHKのBSで「世界ふれあい街歩き」という番組が好評を博しているという。45分ぐらいの程良い長さで、世界各国のめぼしい街を実際の歩く目線で廻ってゆく。そこで出会った町の人に声をかけたり、面白そうな店があったら入ってみたり、団体旅行ではない、ぶらぶらと肩肘張らない街歩きが、テレビというバーチャルリアリティで経験できるものだ。音楽もいいし、この時間は何となく癒されるというのは私一人だろうか。

    さて、都市と人間というテーマは各界の分野から書かれているが、建築史のなかの都市形成史という分野を専門にしている陣内秀信氏のアプローチは、都市は人間がつくり、また人間は都市につくられてゆく、という流れがわかりやすく説明されている。

    著者の目線は、常に都市がみせる景観の中に人間のにぎわいのもとにあるコミュニティに向かっている。著者は「都市というのは、たんに住み心地のいい住宅が保障され、緑や水に包まれたよい環境をもっているだけでも、まだ不十分です。楽しい刺激に接し、面白い情報を得られ、さまざまな人びとと交流ができる舞台としての広場的な空間というものが、同時に必要です」というコンセプトから都市というものを捉えている。

    この書は岩波市民大学シリーズの一冊「人間の歴史を考える-第6巻」であり都市と人間の関係を地形から始め、街路、住宅、市場、そして、広場と公園、宗教空間、都市施設、最後に墓地というように人類が長い歴史で経験してきたものを都市を通して概観している。「経済とテクノロジーばかりが前面に押し出された都市は、魅力がありません。人間の手にいかに都市を取り戻すのか、そのことをこの本では考えてみたかった」と言う著者の目に、15年後、現在の日本の無機質な高層建築の乱立を観てどのように映るだろうか。

    いま、浅草の浅草寺が話題になっており、それは浅草寺の真裏に建設予定である高層マンションの建築許可問題である。浅草寺という宗教建築を考えるとき、著者が取り上げている浅草寺の立地のしかたと水の辺と山の辺にまたがるコスモロジーの深い意味のことを知れば、宗教空間とそれを担保する借景を、いかに百年千年守ることが大事なことかが理解できよう。(斉藤全彦)