• Book Review
  • 『LRT-次世代型路面電車とまちづくり』宇都宮浄人/服部重敬著 成山堂書店刊


    フランスの哲学者ジャック・アタリが21世紀を予測する『21世紀の歴史』の中で述べている。世界がグローバル化すればするほど、人類はよりノマド(遊牧民)化する。一定のところに定住するのではなく、この狭い地球の中を駆け巡り、それが出来ない者は、ヴァーチャルでかなえようとする。人類は今以上に“移動”を求め本来の動物としての本能を満たそうとするのであるという。

    さて、景観まちづくりを考える時、安全安心はもとより、楽しい“移動”の本能を満たすということが必要条件である。確かに、その欲望を20世紀が発明した自動車が満たしてくれてはいた。しかし、100年後の21世紀には車社会は都市生活に深刻な渋滞と地球環境問題を引き起こし、人間からまちを歩くという行為を奪うと共に、まちから賑わいをなくしてしまった。建築家ル・コルビュジエが提示した理想都市“輝く都市”は持続可能ではなかったと言えよう。

    LRT(Light Rail Transit)は路面電車という意味ではない。Street Carがいわゆる私達が親しんできた路面電車のことである。

    ではどこが違うか。LRTとは「連続性という言葉をキーワードとするトータルな交通システム」のことであり、そこを走る車体がLRV(Light Rail Vehicle)となる。まさにこのシステムは「環境にもやさしくまちの中を水平に動くエレベーター」であり、「都市の装置」と考えることによって、21世紀型持続可能な都市生活システムの在り方である。

    この書は、どのようにしたらこのシステムを日本社会に導入できるかを具体的に提示している。

    即ち、LRTというシステムを30年ほど前から実践し地域活性化の実現を齎した欧米都市の動向はもとより、富山市におけるライトレール開業の事例などを挙げ、LRTというシステムが豊かな市民社会において交通基本法としての“交通権”という考え方を提起し、経済的効率性のもとに本来の豊かな賑わいのある21世紀型持続可能な都市生活を提案している。

    「歴史的な文化や歩行者が絶えない賑やかな中心市街地がある都市空間は、居住者に安らぎを与え、郷土への愛着を育む。」という考え方こそ、私達が人間として当然享受すべき本来の“豊かさ”であり、日本国憲法が保障する基本的人権である。

    グローバル社会に生きる21世紀において”Think globally, Act locally”を実践するのに、LRTというシステムは必須条件ではないかと思われる。“交通権”はまさに豊かな“景観権”とともにあるのではないか。
    (齊藤全彦)