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  • 『都市から見る世界史』J・コトキン著 庭田よう子訳


    今回の東日本大震災では多くの都市が津波にのまれ、記憶に残らないぐらいの壊滅的状況を呈した。都市とは人々が生きてきたその生活の証であり臭いである。それをまったく灰燼に帰してしまうのが自然の力というものであろうか。しかし、人類が生息している限り都市は人類の歴史そのものとして現れる。

    フランス人神学者J・エリュールが言ったように「自然の恩寵を失った人間が、その後新たに実現可能な秩序を創造しようとした試みが都市である」ということであろうか。  都市はその誕生当初から重要な三つの役割を担ってきたと著者はいう。即ち、神聖な場の創造、基本的安全の供給、商業取引の場である。そして、都市の研究によれば、「豊かな都市であっても道徳的な絆や市民としてのアイデンティティが欠ければ、退廃的になり衰退する運命が待っている」という。

    著者は人類の歴史を都市の観点から見てゆく。先ず、都市の起源を問い、古代ギリシア・ローマの事例を挙げ、東洋に飛びイスラーム・中華帝国の都市を論じ、ヨーロッパ都市がどのように出来上がり、近代化の足音がする工業都市の出現、そして人類が良い都市を求めるという事はどういうことであるかを問い、最後に都市の未来を論じて終わる。著者は「人類最大の創造物は、いつの時代でも都市だった。

    都市は人類の想像力の究極の作品であり、大きな意味を持ち、奥深く、しかも耐久性のある方法で自然環境を再構成する能力の証である」を基本にしている。  確かに、都市とはそこに住む市民が共通のアイデンティティで結び付いていてこそ生きた都市である。人類の長い都市の歴史を振り返り、「都市は大衆の複雑な性質をまとめ、活気を与える役割を果たす神聖な場所を支配することによってのみ栄えることができる」との著者の結論には、まさに現代人が失ってしまった「場の神聖性」を呼びかけているのである。(斉藤全彦)