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  • 見えがくれする都市』槇文彦他著


    「まちあるきをしながら私たちは一体何を見ているのであろうか?」という問いかけに対して殆どの 人は戸惑いを感ずるのではないか。海外旅行者はただ外国にいるということだけで、物珍しさにつ られすべてを見ているという気がするのではないか。しかし「都市のかたちを理解するということ は一体何を意味しているのだろうか」という槇の問いを今一度問いなおしてもいいのではないだろうか。

    さて、「日本の都市問題の大半は実は住環境問題、住宅問題に帰せられる」という観点からこの研 究は始まったという。そして「都市や建造物は、人間集団の持つ深層意識が時間をこえて造形する 対象であるとするならば、我々の都市への理解の第一歩は、そうした人間集団の深層意識が、都市 の形態にどのようにあらわれてきたかを読み取る作業から始めなければならない」とし、都市の中 には「独自性を与える“何ものかが存在する”」と槇は指摘する。

    まず、第1章、槇文彦の「都市をみる」では道を歩くとき気づくのは、なぜこのような町になった のかという場合「結果としての都市形態は多くの場合、意図の純粋な表出ではなく、さまざまな理 由とか、偶然による不完全な結果である場合が多い。」そして、外国と比べて「日本の都市の中で、 自然の占める重要性は、それが殆ど恒常的に存在し続けた」とし、自然の重要性を指摘する。第2章 では高谷時彦の「道の構図」として、東京都内の街路が江戸時代から今までにどのように出来上がっ たかが論ぜられ、第3章では若月幸敏の「微地形と場所性」と して「日本の代表的都市である東京は、都市というよりも、 むしろ巨大な村落であるといわれる」とし、東京の坂を具体 的に分析し、坂の名称から交差点、丘と寺社を地名との関係 で考察されている。第4章は大野秀敏の「まちの表層」とし て、私たちがまちあるきをする場合いつも気づく、日本の都 市は欧米と違って何故すっきりしていないのかが、お屋敷 型、町屋型、裏長屋型、郊外住宅型としての日本の住環境の 分析によって証明されている。最終章は槇文彦による「奥の 思想」として、日本の思想の原点にこの“奥”という最重要 概念があり、「“奥”なる概念は極めて古い時代から我々の 地域社会に存在していた」とし、この思想がまちなみを創っ ている原点であり、欧米の「中心-区画」に対して日本の 「奥-包む」という明確な対立概念が欧米と日本の都市の違い を明示しているとする。

    この書は、“景観まちあるき”の必携の書であることは間 違いない。(斉藤全彦)